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私の人生を左右する、ささやかだけれど一生忘れない出来事について - デイリー新潮

片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)×作詞家・小竹正人 往復書簡 エンタメ 芸能 2020年11月22日掲載

片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)×作詞家・小竹正人 往復書簡18

 片寄から「夢」について問われた小竹の脳裏に浮かんだのは、カリフォルニアでの約1カ月だった。歌詞の中では「夢」やら「dream」やらをこれでもかと使っていると小竹が言う、その理由が少しわかるかもしれない。

 ***

高校1年生の夏休みにカリフォルニアに

拝啓 片寄涼太様

 確かに君の言う通り、アメリカ生活によって沁みついたものって自分が思っている以上に根強いのかもしれない。

 特にここ最近、この往復書簡を始めてから妙にあの頃を思い出す。1年2年前のことはもちろん、昨日のことすら覚えていないのにね。

 海外で暮らしたいという漠然とした想いは幼い頃からあり、物は試しと高校1年生の夏休みにカリフォルニアに約1か月間の体験留学をしたのだが、そこで私の人生を左右する、ささやかだけれど一生忘れない出来事があった。

 その体験留学で、私は典型的なアメリカの一般家庭にホームステイをした。両親と2人の息子たち(長男は私と同じ年だった)の明るくて素敵なホストファミリーだった。

 ある日、ホストファミリーの親戚の家でホームパーティーが催され、私も連れて行かれた。

 英語をなんとなく聞き取ることはできてもほとんど話せなかった私は、早口で繰り広げられる皆の楽しそうな会話に参加することができず、同じくその輪の中に入っていなかった親戚家族の末っ子ダニエル(おそらく5歳くらいだったと思う)に話しかけた。

 就学前の子供との「What is your name?」「I’m Daniel」みたいな初歩的英会話が当時の私にはちょうどよかったのである。

 親戚宅のリビングには古いビリヤード台が置かれ、その横で私は変な顔をしてダニエルを笑わせたり、日本式のグーチョキパーじゃんけんや折り紙(雑紙でテーブルと椅子を折った)を彼に教えたりした。

 何を話しているのか理解できないネイティブな会話が飛び交う中でおろおろしたり作り笑顔をしたりするくらいなら、その輪から離れてダニエルと2人きりで遊んでいる方がずっと有意義で楽だった。

 しばらくすると、その場にいた10数名全員が私とダニエルを凝視していた。

母親が目に涙を浮かべながら敢えてゆっくりとした口調で

 さっきまで瓶ビールを飲みながら爆笑していた面々が妙に真剣な面持ちで。

 そして、ダニエルの母親が目に涙を浮かべながら敢えてゆっくりとした口調で私に言った。

「この子は本当に人見知りが激しくて、初対面の人と話しているのはもちろん、そんなふうに笑い合っているのを見たことがない」と。

 私のホストファミリーの長男(ダニエルのいとこにあたる)も「僕たちともほとんど話さないよ」と、同じく信じられないものを見た顔をしていた。

 一同全員が「その通り」とばかりにうなずき、ダニエルの父親は、わざわざ誰かに電話して「ダニエルが初対面の日本人の高校生と2人で遊びながら笑っている!」と報告したほどであった。

 その、他の人が聞いたらとるに足らない出来事に、私はまるで自分がものすごい奇跡を起こしたかのように驚喜し、「こんな嬉しいことがあるなんて、やっぱり絶対にいつかアメリカで暮らそう!」と瞬時に決意した。

 あのときの高揚感は、数十年経った今でもダニエルの茶色い瞳とあどけない笑顔と共にはっきりと思い出せる。

 昔、「アメリカンドリーム」という言葉が溢れんばかりに発せられていた時代があった。

 どんな弱者でもどんなに貧乏でもアメリカに行けば夢が叶うと、アメリカは夢の聖地なのだと、汲めども尽きぬ人々がアメリカを目指した。

 私も、人生で一番強く夢見たことは「アメリカに住む」ということだった。

 けれど、その夢のきっかけの最たるものは、かの地で地位や名誉や金を手にしたいなどという大それた野望ではなく、私に心を開いてくれた5歳の少年だった。

次ページ:平穏無事な日常が、今はいとおしくて仕方がない

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