他人のデータで商売ができるか?
インターネットに公開されている情報を収集し仕事や家庭生活で利用することは、今やすっかり一般的となった。
ネットを少し検索すれば、さまざまな製品、サービスのマーケット情報を即座に見つけられるし、世界中の政府や自治体が「オープンデータ」という潮流の中で自らが保有する各種のデータを無償で提供している。
そのようなサイトから集めたデータを整理したり、市場分析や顧客台帳整理を行ったり、あるいはさらなる分析を加えて有償で不特定多数の人間に提供するようなことも行われている。無論、これらは元データの提供者の許諾があれば問題のない行為だし、読者の中にもこうしたデータ収集と活用をしている方も少なくないのではないかと思う。
では、活用されるデータを公開している、あるいは公開されることを前提にどこかのサイトに提供している情報の持ち主は、自分のデータがどこまでも無償で流布されることをどのように思っているのだろうか。
私は政府でオープンデータに関わる仕事をしている。データは日本中、世界中でどんどん使ってほしいし、無償でも有償でも全く構わない。しかし、個人的に一生懸命収集や整理、あるいは分析して無償で公開したデータを、知らない誰かがどこかで有償で提供していたら、もともとのデータ提供者には少し複雑な思いが残るかもしれない。
「人のデータを勝手に売り物にするな」と考える提供者もいるだろう。今回は、無償のデータを使って有償サービスを行い、利益を挙げることが損害賠償の対象になるのか、考えたい。
公開サイトのデータを抽出して売っていた業者
事件の概要から見ていこう。
東京地方裁判所 令和元年12月19日判決から
原告Xは、自らが作成し維持する医療情報を企業Aが運営する公開サイト(健康と医療に関する総合情報サービス)に提供していた。このサービスサイトには、病院、診療所検索機能があり、医療機関ごとに住所、電話番号、最寄り駅、診療科目などの情報を検索、閲覧することができる。なお、Xと企業Aの間には使用許諾契約が締結されていた。また、このサイトに対する情報提供はX以外にも企業Bなどが行っていた。
被告Yは、このサイトから情報を収集し、自らの顧客の依頼に基づいて有償で提供しており一定の売り上げも挙げていた。その手法はサイトのHTMLを解析し、必要な情報を抽出するプログラムを作成、実行して情報をExcelシートに落とし込むというものだった。これを知った原告Xは、これをDBの無断複製であって不法行為に当たるとして損害賠償を請求した。なお、原告Xの作成したデータは有償で検索、閲覧できる部分と無償の部分から構成されており、Yが収集して顧客に提供していたのは、このうち無償の部分であった。
被告Yからすると、「抽出したデータは、もともと広くインターネット上に無償で公開されているものであり、その入手はもちろん、それを利用した商売で利益を上げたところで、どこに問題があるのか」と言いたくなるかもしれない。
一方で原告Xからすると、データ公開の目的は医療を必要とする人が必要な情報のみを知るためにあるのであり、これをデータ抽出して利益のために利用することは想定していなかった。そもそも自分が汗をかいて集めたデータを金目当てで勝手に利用することなど心情的に許せない、という思いもあったろう。
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